2016年の米ワールドシリーズに進出するも、最終戦でカブスに破れ、68年ぶりの優勝を逃したインディアンス。このワールドシリーズ前に、本業の野球とは関係のないところでメディアを賑わしていたのをご存知でしょうか? 実は先住民族のインディアンの男性を漫画化したインディアンスのロゴマークが人種差別的だとする批判が再燃したのです。
今回はブランドロゴデザインに潜む“差別問題”に焦点を当ててみます。
40年以上に及ぶ球団ロゴデザインにまつわる差別問題
クリーブランド・インディアンスが「ワフー酋長」と名づけられたインディアンのキャラクターをロゴデザインとして使い出したのは1947年頃からで、プロ・アマのスポーツ競技が盛んになってきたその時代のアメリカでは、スポーツチームが「レッド・スキンズ」、「ウォリアー」、「ブレーブス」などといった、インディアン民族をイメージしたチーム名やマスコットを採り入れるのが流行っていたそうです。
ところが、ワフー酋長のキャラクターは、「真っ赤な顔、鷲鼻、垂れた目、赤い羽根つきのヘアバンド、剥き出しの白い歯、にやついた表情」といったステレオタイプな表現がインディアン民族の伝統を卑しめているとして、1972年に初めて「アメリカインディアン運動」のクリーブランド支部を中心にした反対運動が起こりました。
以来、球団名の変更とロゴ撤廃を求める団体側と、それに応じない球団との対立はずっと続いてきたのでした。
そしてここにきて68年ぶりのワールドシリーズ出場という世界中の人たちの耳目を集める機会にあたって、この反対運動が再燃したというわけです。
「ネガティブなイメージを持ってはならない」のはロゴや社名の使命
皆さんは現在の「オリックス・バッファローズ」の前身の「オリックス・ブルーウェーブ」のさらに前身の「阪急ブレーブス」という球団をご存知でしょうか? 兵庫県・西宮市を本拠地にした球団なので、関西出身の筆者にとっては非常に親しみのある名前なのですが、お恥ずかしながら、いまの今まで、「ブレーブス」がただの“勇者”ではなく、“インディアンの勇者”を語源として球団名として採用されているのを知りませんでした。
もしかして、日本の球団側には“インディアンの勇者”という意図はなかったのかもしれませんが、1947年に発祥という背景から考えて、明らかにアメリカの「ボストン・ブレーブス(現アトランタ・ブレーブス)」の影響を受けたものと考えられます。ということは、“ブレーブス”という言葉には、“インディアン”の要素が多分に含まれていると言っても間違いではないでしょう。
幸いにも日本では「ブレーブス」という名称がインディアン部族差別だとして問題になった歴史はありませんが、仮にそのようなことが起こっていたとしたら、使用している側としては、「そんな意図はなかった」と表明することでしょうし、それは事実だと思います。
ところが、「そんな意図はなかった」で済まされないのが社名やロゴデザインの世界なのです。
昭和生まれの人なら知っている、カルピスの旧ブランドロゴデザインも、イラストが黒人を侮辱しているとして、変更を余儀なくされたケースです。
多くの人から愛されたキャラクターだったのですが、企業はブランドイメージの劣化を恐れ、ロゴデザインを変えるという判断を下しました。「差別だ」と声を上げられるだけで、その正当性いかんに関わらず、ブランドとしての価値が下がってしまうため、企業としては変更せざるを得ない状況に追い込まれてしまうのです。
こうした事実はいまやロゴデザインの現場や、ロゴデザインを発注する側である団体や企業のトップや関係者の間では当然周知の事柄です。にもかかわらず、リスクヘッジが十分になされているであろう現代においても、同じようなことは現実に起きてしまうということを、私達は目の当たりにしてきました。
当ブログでも採り上げた2020年開催の東京オリンピックのロゴデザインが、既存の団体のものに酷似していたために改められた事件がその代表例です。
事実がどうだったかは置いておいても、あの事件が示した事実は、「ロゴデザインは、ネガティブな要素を持ってはいけない」ということだったと思います。
象徴的なデザインであればあるほど、世界には「似たロゴデザイン」が存在する確率が高くなることはロゴデザイナーであれば誰もが知っています。しかし、オリンピックという一国あげてのイベントのロゴデザインには「似ている」などと言われる要素さえ持ってはいけなかったのです。
一度でもそんなことを言われてしまったロゴデザインは国家や国民や出場選手のよりどころとなる存在としてふさわしくないとされてしまうのです。
これから企業名やロゴデザインを考えるという皆様も、すでに長年使っている社名やロゴデザインがあるという皆様も、一度「うちの社名やロゴデザインにはネガティブな要素が含まれていないか」という視点で確認されてみるのはいかがでしょうか。
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