白紙撤回された東京五輪・パラリンピックのエンブレムですが、現在は再公募をしており少し落ち着いたように見えます。一方でロゴのパクり問題に関しては波紋や影響が広がるばかりです。
撤回されてしまった東京五輪・パラリンピックのエンブレムをデザインした佐野氏が制作した「おおたBITO」のロゴを使用することを群馬・太田市が断念したり、東京都が「東京ブランド推進キャンペーン」で発表したロゴマーク「&TOKYO」が、フランスの眼鏡メーカー「Plug&See」のロゴに似ていると指摘する声があがったりと、さまざまな問題が起きています。
【参考記事】
・佐野研二郎氏のロゴを断念 群馬・太田市の「おおたBITO」その理由は?
・「&TOKYO」に「似ている」指摘ロゴの仏企業、「日仏友好のためロゴ変えるので支援を」と寄付金募集中
東京五輪・パラリンピックのエンブレムも含めてですが、そのロゴがパクりなのか、どうなのか、というのは事実を第三者が知るということはかなり難しいことです。もしかするとデザインした本人でさえも、パクりなのか、オマージュなのか、どこかで見たロゴの印象が残っていてたまたま似てしまったのか、という線引きは難しいのかもしれません。
しかし、そのような事実とは別に、第三者がロゴを見た場合に、このロゴは他のロゴに似ているという指摘の声が上がり、その影響で最終的にはそのロゴが使用されないことになってしまう場合もあるというのは、ロゴの発注者としても制作側としても頭に入れておかなければいけません。
そこで今回は歴代オリンピックエンブレムを参考に、パクりと言われないロゴの作り方について考えていきましょう。
過去のオリンピックエンブレムにも当然賛否両論はあった
(画像引用元:http://www.all-nationz.com/archives/1035605834.html)
こちらは1932年のロサンゼルスオリンピックから、2020年の東京オリンピックまでの、歴代オリンピックエンブレムを古いものから順に並べた一覧画像になります。
オリンピックエンブレムの歴史はデザインの歴史を反映しているとも言えますから、見ていると古いものほど写実的なロゴで、新しいものほどシンプルでシンボリックなものが多い傾向があります。
しかし個々のオリンピックエンブレムの評判という話になると、正直なところ好みの問題になってしまいます。相対的に見て評判の良かったロゴ、逆に悪かったロゴというのはありますが、それがデザイン的な善し悪しとイコールということでもありません。それでは良いオリンピックエンブレムとは、どのようなデザインなのか考えていきましょう。
オリンピックエンブレムのデザインに必要なものとは
2020年の東京五輪・パラリンピックのエンブレムと、他のエンブレムを見比べると気づく点があります。それは既存フォントと図形をモチーフにしたようなロゴは他にないということです。
以前に「東京五輪エンブレム問題から学ぶ、トラブルにならないロゴの作り方」でも書きましたが、
あれだけシンプルな幾何学とフォントをモチーフにロゴを作れば「何かしらのロゴに似てしまってもしょうがない」
のです。対して他のオリンピックエンブレムは、マークシンボルがどれも特徴的でアート的なものになっています。つまりデザイン的な要素だけでなく、アート的な要素も含まれるものであることによって、唯一無二なデザインになっているものがほとんどなのです。
オリジナリティが高いエンブレムは、好き嫌いはわかれてしまうかもしれません。しかし、このエンブレムでオリンピックを行うんだ!という機運が高まれば良いわけですから、他のロゴに似ていいないそのオリンピックのためだけのオリジナリティというものが、とても重要なデザインの要素になるわけです。
実際のロゴ制作の案件ではクライアントにしっかりとヒアリングすることが重要
オリンピックエンブレムに関しては、オリジナリティが非常に重要であることはわかっていただけたと思います。ただ、すべての場合においてロゴ制作ではオリジナリティが重要なわけではありません。
オリジナリティよりもロゴを見た際に、何のロゴなのか、何の業種なのかがわかることが重要な場合もありますし、イメージしているロゴがあり、それに近しいデザインにして欲しいという場合もあります。
制作側はクライアントが望むロゴはどのようなものなのかをしっかりと聞き出し、発注者は自分たちのイメージやビジョンをできる限り伝える、そうすることでお互いに理解しあってロゴを制作していくことが重要になります。
傾向としては、オリンピックエンブレムや群馬・太田市の「おおたBITO」のように、大きな意味では不特定多数の人がクライアントになるようなロゴは、オリジナリティが重要な場合が多いのかもしれません。他のロゴに似ていることが(パクりでないとしても)大きな問題に発展する時代であることが東京五輪エンブレム問題でわかったと言えるでしょう。
まとめ
ロゴの案件も規模の大きなものになればなるほど、多くの人がそのロゴを目にして、さまざまな意見があり、問題に発展してしまう場合もあります。
そのようなことを避けるためにも、デザインにおけるオリジナリティをデザイナーは改めて考える時代でもあるのかもしれません。
案件に合わせた適切なコミュニケーションやワークフローを行うことが、これからのロゴ制作ではより重要になるでしょう。